vol.744【経営コラム】社長の仕事は未来を設計すること
…経営者にしかできない、たった一つの仕事
三回にわたり、「イン・ザ・ビジネス」と「オン・ザ・ビジネス」という考え方についてお伝えしてきました。
第一回では、多くの中小企業経営者が、事業の中で働く「イン・ザ・ビジネス」に陥りやすいことを述べました。第二回では、経営者は現場から一歩離れ、高所・大所から会社全体を俯瞰する「オン・ザ・ビジネス」の視点を持つことが重要であることをお伝えしました。
では最後に、一つの問いを投げ掛けたいと思います。
社長にしかできない仕事とは、一体何でしょうか。
- 営業でしょうか。
- 資金繰りでしょうか。
- 採用でしょうか。
- あるいは、クレーム対応でしょうか。
もちろん、それらは重要な仕事です。しかし、どれも本来は社員や幹部に任せることができる仕事です。
一方で、誰にも任せることのできない仕事があります。それは、会社の未来を設計すること。これこそが、経営者だけに与えられた役割です。
経営とは、今日を管理することではありません。未来を創ることです。
- 三年後、五年後、十年後、自社はどのような価値を社会に提供しているのか。
- どのようなお客様から選ばれているのか。
- どのような社員が活躍し、どのような企業文化が根付いているのか。
その未来を描き、現在の意思決定につなげることが、経営者の使命です。
私は経営者を「建築家」に例えることがあります。建築家は、自らレンガを積みません。図面を描き、全体を設計し、完成した姿を誰よりも鮮明に思い描きます。その設計図があるからこそ、多くの職人が力を合わせ、一つの建物を完成させることができます。会社も同じです。
社長が現場で誰よりも働いていても、会社の設計図がなければ、組織は同じ場所を回り続けるだけです。だからこそ、経営者は未来を語らなければなりません。理念を示し、進む方向を示し、社員が「何のために働くのか」を示さなければなりません。
社員は、未来が見える会社でこそ、自ら考え、自ら行動し、成長していきます。その未来を示せるのは、社長しかいません。未来は、突然やってくるものではありません。未来は、今日の意思決定の積み重ねによって創られます。
- 価格をどう決めるか。
- どの事業に投資するか。
- 誰を採用するか。
- どのような人材を育てるか。
- どこまで権限を委譲するか。
こうした日々の判断は、すべて未来への投資です。だからこそ、経営者には「考える時間」が必要なのです。予定が空いたから考えるのではありません。未来を創るために、考える時間を予定に入れるのです。毎週二時間でも構いません。毎月半日でも構いません。現場を離れ、自社を俯瞰し、未来から現在を見る時間を持ってください。
「今、何をするか」だけではなく、「未来のために、今、何をしないか」を決めることも、経営者の重要な仕事です。
経営者は、多くの仕事を抱える人ではありません。本当に重要な仕事を選び抜く人です。会社の成長は社長の能力だけで決まるとは思っていません。社長の「視座」によって決まると考えています。高い場所から会社を見つめる経営者は、変化を先読みし、機会を見いだし、組織を育て、持続的な成長を実現します。反対に、目の前だけを見続ける経営者は、問題への対応に追われるうちに、変化そのものを見失ってしまいます。
三回にわたりお伝えしてきた「イン・ザ・ビジネス」と「オン・ザ・ビジネス」という考え方は、決して働き方の違いを論じているのではありません。それは、経営者の視座の違いをお伝えしたかったのです。
- 会社を変える前に、まず経営者の視点を変える。
- その視点が変われば、判断が変わります。
- 判断が変われば、行動が変わります。
- 行動が変われば、組織が変わります。
- そして、組織が変われば、会社の未来は必ず変わります。
最後に、皆様へ一つの言葉を贈ります。
経営者は、会社で一番働く人ではない。経営者とは、会社で一番遠くの未来を見る人である。その未来を描き、その未来へ向かう道筋を設計し、組織を導くこと。それこそが、社長にしかできない、そして社長が果たすべき最も大切な仕事なのではないでしょうか。

