vol.746【経営コラム】ブランドは社長がつくる

…選ばれ続ける会社になるためのブランド経営

前回は、ブランドとは単なるロゴや広告ではなく、「価格以上の価値を感じてもらい、選ばれ続けるための経営資産」であるとお伝えしました。では、中小企業はどのようにしてブランドをつくればよいのでしょうか。

ブランドづくりは広告会社やマーケティング担当者の仕事ではなく、社長の仕事だと考えています。なぜなら、ブランドの出発点は「自社は何者なのか」「誰に、どのような価値を提供する会社なのか」を決めることだからです。これは経営戦略そのものです。

ブランド戦略の第一人者であるデービッド・アーカーは、ブランドの資産価値を「ブランド・エクイティ」という概念で整理しました。代表的な要素として、ブランド認知、知覚品質、ブランド連想、ブランド・ロイヤルティなどがあります。

これを中小企業経営に置き換えると、難しく考える必要はありません。
「○○なら、あの会社」と思い出してもらえること。
「あの会社の商品なら安心だ」と信頼してもらえること。
「多少高くても、あの会社から買いたい」と思ってもらえること。
この状態をつくることが、ブランド経営なのです。

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。
第一に、「何の会社なのか」を明確にすることです。何でもできます、誰にでも売ります、という会社は、一見すると商売の間口が広いように見えます。しかし、顧客の記憶には残りにくくなります。「○○について困ったら、あの会社」と言われるような専門領域をつくることが重要です。

第二に、自社が提供する価値を言語化することです。
「品質第一」「お客様第一」「地域密着」といった言葉だけでは、他社との違いは伝わりません。「他社より納期が半分」「特殊な小ロット加工に強い」「問い合わせには原則当日回答する」など、顧客にとって何が違うのかを具体的にする必要があります。

第三に、その価値を徹底して磨くことです。
ブランドは宣伝によって強くなるのではなく、顧客の期待に応え続けることで強くなります。品質を売りにするなら品質に妥協しない。スピードを売りにするなら、誰が対応しても速い。提案力を売りにするなら、営業担当者全員の提案水準を高める。会社が掲げる価値と、実際の顧客体験を一致させなければなりません。

第四に、発信を続けることです。
素晴らしい技術やサービスを持っていても、知られなければブランドにはなりません。ホームページ、SNS、YouTube、ニュースレター、セミナーなどを活用して、「私たちは何を大切にしている会社なのか」「どのような問題を解決できるのか」を継続的に伝えることが必要です。

そして第五に、最も重要なのが一貫性です。
ブランドは、一度の広告キャンペーンで完成するものではありません。商品、営業、接客、納品、アフターサービス、ホームページ、社員の言葉遣いまで、顧客が会社と接するすべての場面で同じ価値を感じてもらう必要があります。

だからこそ、ブランドづくりは社長だけでは完結しません。社長がブランドを定義し、社員全員でブランドを実現する。これがブランド経営です。例えば「日本一対応の早い会社」を目指すのであれば、それを広告で宣言するだけでは意味がありません。電話対応、見積書の提出、クレーム対応、納品まで、会社全体の仕組みを「速さ」という価値に合わせて変えなければなりません。つまりブランド戦略とは、マーケティング戦略であると同時に、組織戦略でもあるのです。

さらに、ブランドの効果は販売だけにとどまりません。強いブランドを持つ会社には人材も集まりやすくなります。取引先からの信用も高まり、金融機関からの評価にもプラスに働きます。そして、事業承継やM&Aを考える場合にも、ブランドは企業価値を構成する重要な無形資産になります。工場や機械はお金を出せば買えます。しかし、何十年もかけて築いた顧客からの信頼や知名度、評判は簡単には買えません。だからこそブランドには価値があります。

中小企業経営者には、毎年の売上や利益だけではなく、「自社のブランド資産は今年一年で強くなったのか」という視点を持っていただきたいと思います。売上は今年の成果ですが、ブランドは未来の利益を生み出す資産だからです。

ブランドのある会社は、価格だけで比較されません。値上げをしても選ばれ、優秀な人材からも選ばれ、取引先からも選ばれます。その「選ばれる力」の積み重ねが、長期的な企業価値をつくります。経営者が考えるべき問いは、「どうすればもっと売れるか」だけではありません。「私たちは、何によって選ばれ続ける会社になるのか。」その答えを明確にし、社員と共有し、日々の仕事を通じて徹底し、社会に発信し続ける。それこそが中小企業のブランド戦略です。

ブランドとは、売るための飾りではありません。価格競争から会社を守り、利益を生み、人材を引き寄せ、企業価値を高める経営資産です。そして、その資産をつくり育てる最高責任者は、ほかでもない社長なのです。