vol.733【実践コラム】成長するほど資金が必要になることについて

…売上の拡大は、それ自体が資金を必要とする活動です。

10月は、成長と資金繰りのバランスをテーマにお話ししていきます。9月は、年間1億円を売る新規事業に常時1,600万円の運転資金が寝るというA社を追いながら、銀行との向き合い方を整理しました。そのA社の話には続きがあります。1,600万円はあくまで1億円の計画を回すための資金であり、事業が伸びれば、必要な資金はさらに膨らみます。今回は、この成長と資金の関係を正面から取り上げます。

多くの社長にとって、売上が伸びることは良いことであり、資金繰りが楽になる方向の変化だと感じられます。確かに、利益が増えれば最終的に手元資金は厚くなります。しかし、そこに至るまでの過程では、逆のことが起きます。売上の拡大は、それ自体が資金を必要とする活動だからです。

A社の構造で考えてみます。1億円を売るのに1,600万円が寝るということは、仮に売上が2億円に倍増すれば、同じ取引条件のままなら、寝る資金もおよそ2倍の3,200万円に膨らみます。仕入れの先出しは売上に比例して増え、売掛金も売上に比例して増えるからです。売上が伸びるほど、先に出ていく仕入れ代金と、未回収の売掛金が同時に膨らみ、必要な運転資金は売上とともに大きくなっていきます。

ここに、成長局面の落とし穴があります。損益計算書の上では、売上も利益も増えて見えます。順調そのものに見えます。ところが現金は、増えるどころか、むしろ薄くなっていきます。利益は出ているのにお金がない、という状態です。これは、「利益が出ているのにお金が残らない」構造が、成長局面で最も激しい形で現れたものにほかなりません。

さらに厄介なのは、この局面では社長の意識が前向きになっていることです。売上が伸び、受注も増えている。だからさらに仕入れを増やし、人を採り、投資をする。判断としては自然ですが、そのすべてが資金を先に必要とします。売上増という追い風のなかで、資金だけが静かに薄くなっていく。勢いがあるからこそ、資金繰りへの警戒が緩みやすい局面だと言えます。

黒字倒産という言葉があります。利益が出ているにもかかわらず、資金が尽きて事業が立ち行かなくなることです。その典型が、まさにこの急成長の局面で起きます。売上が伸び、帳簿は黒字で、社長の手応えもある。それでも、運転資金の膨張に資金の手当てが追いつかなければ、事業は止まります。成長は、資金繰りにとって追い風であると同時に、負荷でもあるのです。

では、成長を止めればよいのかというと、そうではありません。大切なのは、成長には資金が伴うという構造をあらかじめ理解し、売上を伸ばす計画と、それに必要な資金を用意する計画を、セットで持っておくことです。A社のように、いくらの売上に対していくらの資金が寝るのかが分かっていれば、次にどこまで伸ばすと、いくらの資金が追加で必要になるかも見通せます。

10月は、この成長と資金繰りのバランスを、もう少し具体的に見ていきます。次回は、成長局面で資金がどのように膨らんでいくのか、増加運転資金という考え方を軸に整理します。