vol.729【実践コラム】銀行が融資を判断する視点について
…交渉はお願いではなく、銀行が判断できる材料をそろえることから始まります。
9月は、銀行交渉と融資実務をテーマにお話ししていきます。前回は、年間1億円を売る新規事業に、常時1,600万円もの運転資金が寝るというA社の事例を取り上げました。必要な運転資金が数字で見えたところで、次に問題になるのが、その数字を持って金融機関にどう相談するかです。今回はその入り口として、銀行が融資の申し込みをどこで判断しているのかを整理します。
融資の相談というと、資金を貸してもらうようお願いする場面だと捉えられがちです。しかし銀行の立場から見ると、融資は貸したお金が返ってくる見込みがあるかどうかの判断にほかなりません。お願いの熱意ではなく、返済の見込みを示す材料がそろっているかどうかで、話は進みます。交渉の出発点は、頼み込むことではなく、銀行が判断できる材料を渡すことにあります。
銀行が最初に見るのは、返済の原資です。借りたお金を何によって返すのかという点であり、ここで大切なのは、利益と返済原資は同じではないということです。損益計算書の利益がそのまま返済に回るわけではなく、売掛金や在庫に姿を変えて手元に残らないことは、これまで繰り返し見てきたとおりです。銀行も、決算書の利益だけでなく、その利益が現金として残り、返済に耐えられるかどうかを見ています。
A社の1,600万円に当てはめてみます。この資金は、仕入れの現金先出しと、入金までの期間を埋めるために、事業を回している間じゅう寝続けるお金でした。裏を返せば、事業が続く限り必要になり続ける、経常的な運転資金です。一度に返してしまう性質のものではなく、事業の回転に合わせて必要とされ続ける資金だと説明できます。この性質を数字とともに示せると、銀行は資金の使い道と必要額を具体的に理解できます。
ここで効いてくるのが、前回までに整えた資金繰り表です。なぜ1,600万円が必要なのかを、取引条件と資金の流れで説明できれば、申し込みは「お金が足りないので貸してほしい」という漠然とした相談ではなくなります。「この取引条件でこの売上を作るには、経常的にこれだけの運転資金が要る」という、根拠のある相談に変わります。銀行にとって判断しやすいのは、後者です。
つまり、銀行交渉で最初にすべきなのは、金利や条件の駆け引きではありません。資金使途と必要額、そしてその資金がどう回っていくのかを、自社の言葉と数字で説明できる状態を作ることです。この土台があれば、そのあとの具体的な条件の話も、落ち着いて進められます。
次回は、運転資金にはどのような借り方があるのか、資金の性質に合った融資の形について整理していきます。A社の1,600万円のような経常的な運転資金には、それに合った借り方があります。

