vol.731【実践コラム】銀行に自社の状況をどう見せるかについて

…同じ数字でも、示し方しだいで銀行の理解は大きく変わります。

前回は、運転資金には資金の性質に合った借り方があることを、A社の1,600万円を例に整理しました。今回は、そうした借入の相談を進めるときに、自社の状況を銀行にどう見せるかをお話しします。用意する資料は同じでも、示し方しだいで銀行の理解の深さは大きく変わります。

銀行に提出する基本的な資料は、決算書、試算表、資金繰り表の3つです。それぞれ役割が違います。決算書は、過去1年の経営の結果を示します。試算表は、決算後から現在までの足元の状況を示します。資金繰り表は、これから先の資金の動きを示します。過去、現在、未来と、3つの資料で時間軸がつながることで、銀行は会社の流れを一続きのものとして理解できます。

多くの会社は、決算書と試算表までは用意します。しかし資金繰り表まで出せる会社は、それほど多くありません。ここに差が出ます。決算書と試算表だけでは、銀行に見えるのは過去と現在までです。この先どうなるのか、なぜ今このタイミングで資金が必要なのかは、銀行の側で推測するしかありません。資金繰り表を加えると、その先が数字で見えるようになり、融資の必要性が具体的な根拠を持ちます。

A社の例で考えてみます。決算書と試算表だけを持って相談に行けば、銀行に伝わるのは、これまでの業績と足元の残高までです。ところが資金繰り表を添えれば、新規事業でこの先いつ資金が薄くなり、なぜ1,600万円が経常的に必要になるのかを、取引条件と資金の流れから示せます。同じ会社の同じ相談でも、後者のほうが銀行は判断しやすくなります。

そのうえで意識したいのは、資料を渡すだけでなく、数字の背景を自分の言葉で説明することです。試算表で在庫が増えていれば、なぜ増えたのかを説明できるようにしておく。売掛金が膨らんでいれば、それが売上増によるものか、回収の遅れによるものかを分けて語れるようにしておく。数字の変化に社長自身の説明が伴うと、銀行は経営者が自社の状況を把握していると受け取ります。この把握しているという印象は、融資の判断において小さくない意味を持ちます。

反対に避けたいのは、都合の悪い数字を隠すことです。一時的に業績が落ちた月や、資金が薄くなる見通しを伏せて相談を進めても、いずれ試算表や資金繰り表から見えてきます。むしろ、厳しい数字も含めて自分から示し、それにどう対処するつもりかを添えるほうが、銀行の信頼は得やすくなります。悪い数字を隠さず、その原因と対策をセットで語る。この姿勢が、継続的な取引の土台になります。

見せ方で大切なのは、資料をきれいに整えることではありません。過去、現在、未来を3つの資料でつなぎ、数字の背景を自分の言葉で語り、良い数字も悪い数字も含めて全体像を示すことです。ここまで準備できていれば、融資の相談は、お願いではなく対話として進みます。

次回は、9月のまとめとして、A社がこの一連の準備をもとに銀行とどう向き合ったのか、これまでの流れを一つにつないで整理します。