vol.750【経営コラム】AI時代だからこそ「社長にしかできない仕事」に集中する

…社長の仕事は、会社の未来を設計することである

前回は、これからの会社では社員一人ひとりが「AIという部下」を持つようになり、人間はより付加価値の高い仕事へ集中すべきだとお伝えしました。

では、AIが普及すると「社長の仕事」はどう変わるのでしょうか。私はむしろ、AI時代だからこそ、「社長にしかできない仕事とは何か」が、これまで以上に明確になると考えています。中小企業の社長は忙しいものです。メールを確認する。会議に出る。営業する。見積書を確認する。社員から相談を受ける。取引先と打ち合わせをする。クレームに対応する。資料を作る。気がつけば一日が終わっています。しかし、ここで考えていただきたいのです。「その仕事は、本当に社長にしかできない仕事でしょうか。」

AIが急速に進化するこれからの時代には、情報収集、資料作成、文章作成、要約、分析など、社長自身が行ってきた仕事のかなりの部分をAIに補助させることができます。社員に任せられる仕事もあります。外注できる仕事もあります。だからこそ、社長は空いた時間を「楽になるため」に使うのではなく、社長にしかできない仕事へ再配分するべきです。

では、社長にしかできない仕事とは何でしょうか。私は、大きく五つあると考えています。

第一は、「どの事業をやるか」を決めることです。
どれだけ一生懸命働いても、市場が縮小し、競争が激しく、利益の出にくい事業に居続ければ、会社は豊かになりません。反対に、成長市場、高収益市場、自社の強みが生きる市場へ移れば、同じ努力でも成果は大きく変わります。私はこれを「事業立地の選択」と考えています。AIは市場を調査し、データを分析し、候補を提示することはできます。しかし、「我が社はどこで戦うのか」を最終的に決断するのは社長です。

第二は、ビジネスモデルを決めることです。
誰を顧客にするのか。何を提供するのか。どこで利益を生み出すのか。価格はいくらにするのか。売り切りなのか、継続課金なのか。自社で行うのか、外部と組むのか。AIによって仕事を20%効率化することも重要ですが、ビジネスモデルを変えることで利益が2倍、3倍になる可能性もあります。

第三は、「何をやらないか」を決めることです。
経営資源が限られている中小企業では、これは極めて重要です。儲からない商品をやめる。利益率の低い取引を見直す。将来性のない事業から撤退する。意味のない会議をなくす。社長の仕事は仕事を増やすことだけではありません。会社から不要な仕事を捨てることも、重要な経営判断です。

第四は、人をどこに配置するかを決めることです。
AIによって業務効率が上がったとき、すぐに人員削減を考える必要はありません。例えば10人で行っていた仕事を7人でできるようになったなら、残る3人を営業、新商品開発、顧客フォロー、新規事業など、より付加価値の高い仕事へ移す。つまりAI時代の人事戦略とは、「人を減らすこと」ではなく、「人を価値の高い仕事へ移すこと」でもあるのです。

そして第五が、最も重要です。
会社の未来を設計することです。3年後、5年後、会社をどのような姿にしたいのか。どの市場で戦うのか。どんな商品を持つのか。どんな顧客から支持されるのか。どんな人材を集めるのか。どの程度の利益を出す会社にするのか。これはAIにも社員にも丸投げできません。もちろんAIは優秀な参謀にはなります。大量の情報を調べ、選択肢を提示し、事業計画をシミュレーションし、社長の考えに反論させることさえできます。しかし、AIは会社の未来に責任を負ってくれません。選択すること、決断すること、そして結果に責任を持つこと。これは最後まで経営者の仕事です。

私は、AIの普及によって「社長の仕事がなくなる」とは考えていません。むしろ逆です。AIが作業を代替してくれるほど、社長は本来やるべき仕事に集中できるようになります。これまで社長が「会社の中」で仕事をしていた時間を減らし、「会社の未来」を考える時間を増やすことができるのです。だから私は、中小企業経営者の皆さんに、自分のスケジュールを一度見直していただきたいと思います。

一週間のうち、「今日の会社を動かす仕事」に何時間使っていますか。そして、「3年後、5年後の会社をつくる仕事」に何時間使っていますか。AI時代に最も危険なのは、AIを使わないことだけではありません。AIによって社員の仕事は変わっているのに、社長だけが昔と同じ仕事を続けることです。

この3回の連載でお伝えしたかったことは、AIの操作方法ではありません。AIによって会社そのものを変えることです。
第1回では「AIを使って仕事のやり方を変える」。
第2回では「社員一人ひとりがAIという部下を持つ」。
そして第3回では「社長自身が社長にしかできない仕事へ集中する」。
この三つがつながって初めて、AIは単なる業務効率化ツールではなく、経営を変える武器になります。AI時代になればなるほど、社長には人間にしかできない仕事が残ります。未来を描く。選択する。決断する。そして責任を負う。AIは優秀な参謀にはなれても、社長にはなれません。だからこそ、これからの社長に問われるのは、「AIに何をさせるか」だけではなく、「AIによって生まれた時間で、自分は何をするのか」なのです。社長の仕事は、今日の仕事に追われることではありません。会社の未来を設計することなのです。