vol.749【経営コラム】社員一人ひとりに「AI部下」を持たせる

…一人当たり生産性を劇的に高める新しい働き方

前回は、AI時代に重要なのは、単にChatGPTなどのAIツールを導入することではなく、「AIを前提に仕事のやり方そのものを変えること」だとお伝えしました。今回は、さらに一歩進めて考えてみたいと思います。

これからの会社では、「社員一人ひとりがAIという部下を持つ」という発想が必要になると考えています。もちろん、AIが本当に部下になるわけではありません。しかし、これまで社員自身が行っていた調査、資料作成、文章作成、情報整理、分析などの仕事をAIに任せ、人間は判断や交渉、企画など、より付加価値の高い仕事に集中する。そのような働き方です。

例えば営業担当者を考えてみましょう。
これまでは、お客様を訪問する前に企業情報を調べ、業界動向を調査し、提案内容を考え、提案書を作り、訪問後には議事録を作成し、御礼メールを書いていました。営業担当者が本来やるべき仕事は何でしょうか。資料を作ることではないはずです。お客様の課題を理解し、信頼関係を築き、最適な提案を考え、契約につなげることです。そこでAIを部下として使います。「この会社について調べておいて」「この業界の課題を整理して」「今日の面談内容を要約して」「次回の提案書のたたき台を作って」「御礼メールを作って」このような仕事をAIに任せれば、営業担当者はお客様と向き合う時間を大幅に増やすことができます。

これは営業だけではありません。
経理担当者なら、数字の整理や資料作成をAIに補助させ、人間は異常値の発見や経営への提言に時間を使う。
人事担当者なら、求人原稿、面接質問、研修資料、社内規程のたたき台をAIに作らせ、人間は応募者との対話や社員育成に集中する。
経営幹部なら、会議資料の整理や市場調査をAIに任せ、戦略立案や意思決定に時間を使う。
社長自身も同じです。市場調査、競合分析、新規事業のアイデア出し、契約書の論点整理、会議資料の要約などをAIに補助させれば、これまで数時間かかっていた仕事を大幅に短縮できる可能性があります。

つまり、AI活用で重要なのは、「今の仕事をどうAIで効率化するか」ではなく、「人間にしかできない仕事は何か」を考えることなのです。

会社の仕事を大きく三つに分けて考えると分かりやすいと思います。
第一は、AIに任せる仕事です。情報収集、要約、文章の下書き、議事録、データ整理、定型的な問い合わせ対応などです。第二は、AIと人間が一緒に行う仕事です。企画、分析、提案書作成、マーケティング、採用、商品開発などです。AIに案を大量に出させ、人間が選び、修正し、最終判断する仕事です。第三は、人間が中心となる仕事です。重要な意思決定、顧客との信頼関係、交渉、社員の育成、組織づくり、リーダーシップなどです。

この三つに仕事を分類するだけでも、会社の生産性は大きく変わると思います。ここで、経営者が注意しなければならないことがあります。社員に「AIを使ってください」と言うだけでは、なかなか活用は進みません。ある社員は毎日使い、ある社員は全く使わない。使っている社員でも、それぞれが自己流で利用する。この状態では、個人の生産性は多少上がっても、会社全体の生産性は大きく変わりません。だからこそ、AI活用を個人の能力ではなく会社の仕組みにする必要があります。

例えば、「営業訪問前にはAIで顧客分析をする」「会議終了後はAIで議事録とアクションリストを作る」「提案書はAIで最初のたたき台を作る」といった標準的な仕事の流れを決めます。さらに、成果の出たAIの使い方や指示文を社員同士で共有する。会社として利用ルールを設け、機密情報や個人情報の取り扱いにも注意する。こうして初めて、AIは「便利な個人ツール」から「会社の生産性を高める経営インフラ」に変わります。

今後、「社員数が多い会社=強い会社」という考え方も変わっていくと思います。重要になるのは社員数ではなく、一人の社員がどれだけ大きな付加価値を生み出せるかです。
例えば、これまで10人で行っていた仕事をAIの活用によって6人で行えるようになったとしても、残り4人を減らすことだけを考えるべきではありません。その4人を営業、新商品開発、新規事業、顧客フォローなど、会社の未来をつくる仕事へ移す。そうすれば、同じ人数でも会社が生み出す付加価値を大きくすることができます。

人口減少と人手不足が続く日本では、「人が足りないから採用する」という発想だけでは限界があります。その前に、「今いる社員一人ひとりの能力をAIによって何倍にできるか」を考えるべきではないでしょうか。社員一人に一人のAI部下を持たせる。そして人間は、AIにはできない仕事へ集中する。これがこれからの中小企業における働き方の基本形の一つになると考えています。

AI時代の競争力は、社員数だけでは決まりません。「人間の力×AIの力」で、一人当たりどれだけの付加価値を生み出せるか。ここに、これからの中小企業の生産性向上と成長の大きな可能性があります。

…次回号に続く。